
相続税の課税対象者の中には、財産の大部分が不動産で、納税のための現預金が不足しているケースが珍しくありません。その際、不要な不動産を国に納める「物納」を希望する方も多いでしょう。しかし、物納は決して容易な選択肢ではありません。
1. 物納・延納の現状と優先順位
相続税は「現金一括納付」が原則です。それが困難な場合に限り、分割払いの「延納」、それでも難しい場合に初めて「物納」が検討されます。2024年度の申請件数を見ると、延納の1,197件に対し、物納はわずか50件。納税者全体(約34万人)から見ても、物納は極めて特殊なケースといえます。
2. 物納のメリットと厳しいハードル
物納の最大のメリットは、売却が難しい不動産を相続税評価額で納税に充てられ、仲介手数料などのコストを抑えられる点にあります。
一方で、デメリットや制限も多いです。
厳格な要件: 抵当権がないこと、境界が確定していること、道路に接していることなど、管理しやすい優良な物件である必要があります。
手間とリスク: 測量や境界確定の手続きは申請者負担であり、時間と労力をかけても却下されるリスクがあります。
評価額の差: 多くの場合、物納額(相続税評価額)は市場での売却価格(時価)より低くなります。
3. 計画的な準備が不可欠
近年、不要な土地を国に返す「相続土地国庫帰属法」も施行されましたが、承認率は約半数にとどまっています。地価の上昇傾向や地域格差を考えると、いざという時に「売れない・貸せない・物納できない」という事態に陥る恐れもあります。
納税期限に間に合わせるために無理な売却や借り入れを避けるには、生前から資産状況を把握し、納税資金を確保するための計画的な準備が重要です。









