
国税当局は、2025年7月から相続税の税務調査に人工知能(AI)を活用しています。このAI分析は、主に2023年に発生した相続事案が対象となります。
AIが分析するのは、「相続税の申告書」に加えて「過去の所得税申告書」「財産債務調書」「海外送受金記録」「生命保険の一時金支払調書」「金地金売却時の支払調書」など、多岐にわたる情報です。
これらのデータを基に、AIは故人(被相続人)ごとの相続税申告漏れのリスクをスコア化。調査官はこのスコアを参考に、実地調査の要否を判断します。分析は国税庁が行いますが、最終的な調査対象者の選定は各地の国税局や税務署の担当者が行います。相続財産が5,000万円を超えるケースでは、調査対象となる可能性が高まるでしょう。
法人税や所得税の調査では既にAIが導入されており、2023事務年度の法人などへの追徴課税は過去最高を記録するなど、その効果は実証済みです。
<AI導入の背景と今後の影響>
2025年には団塊世代が全て75歳以上となり、今後、相続件数は大幅に増加すると見込まれています。人海戦術では処理しきれない膨大なデータの照合と分析をAIが担うことで、効率的な調査体制が構築されることになります。
AI導入により、調査官には時間的な余裕が生まれ、これまで手が回らなかった実地調査などの対面型調査が増える可能性も考えられます。
これにより、今後は富裕層だけでなく、相続財産が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)をわずかに超える層も調査対象となるケースが増えるかもしれません。
納税者側は、国税当局に説明できるだけの情報や証拠をしっかりと集め、保管しておく必要が出てきます。これまで以上に綿密な生前対策が求められる時代になったと言えるでしょう。