【保険の落とし穴❿】保険の受取人が、疎遠な相続人だった場合に立ちはだかる壁とは?

Hさんは30年前に妻と長女と別れて以来、一人暮らしでした。
自身のことを気にかけてくれる唯一の肉親である姉に感謝し、姉を受取人とする生命保険に加入。また、病気になった時に迷惑をかけまいと医療保険にも加入していました。そんな矢先、Hさんは病で帰らぬ人に。

【生命保険金の請求:思わぬ壁】
Hさんから話を聞いていた姉は生命保険を受け取ろうとしましたが、保険会社から「被保険者(Hさん)の住民票の除票」が必要と告げられます。役所で取得しようとすると「兄弟姉妹は直系の親族ではないため取得できません」との回答。

姉は担当者に詳しく説明し、自身が受取人である証明(保険証券や必要書類の記載された書面)、Hさんと姉が一緒に記載された除籍謄本などを提示することで、ようやく「住民票の除票」を取得できました。

※戸籍法や住民基本台帳法に基づき、本人や配偶者、直系血族(親や子など)以外の第三者が戸籍謄本や住民票の写しなどを請求することを「第三者請求」と呼びます。これは、自身の権利を行使するためなど、正当な理由があれば認められますが、役所の窓口では詳しい説明や証明書を求められます。中には、「第三者請求」の対応に不慣れな担当者もいて、話がスムーズに進まない場合も少なくありません。

【医療保険金と相続財産:長女への連絡手段がない】
次に医療保険金を請求しようとした姉。しかし、こちらは生命保険金と異なり、受取人はHさんの相続人、つまり30年前に別れた長女に受け取る権利がありました。預金や不動産などの相続財産も、長女でなければ手続きができません。

姉は長女(姪)に連絡を取ろうとしましたが、住所が不明。役所に相談しても、傍系血族(兄弟姉妹、甥姪)の戸籍謄本や戸籍の附票を辿ることはできないと断られます。

Hさんの葬儀費用を負担した姉は、債権者という立場で「第三者請求」をして認められる可能性もありますが、役所のハードルは依然として高いのが現状です。

弁護士・税理士・司法書士・行政書士などの専門家に依頼し、「職務上請求書」で取得してもらうという方法もあります。しかし、「相続税の申告をする」「登記をする」「法定相続人を確定し、相続関係説明図を作成する」「内容証明を送る」など、業務を遂行するために必要な請求に限られます。

相続人に医療保険金(数万円~数十万円)の受け取りを連絡するためだけに行政書士に依頼するということも可能ですが、相続財産がほとんどない場合など、その費用は依頼者(事例の場合、Hさんの姉)の負担に終わることも考えられます。

もしHさんの姉が姪を探し出すのをあきらめて医療保険を放置した場合、法定相続人の調査をする保険会社としない保険会社があります。いずれにしても、相続人と連絡が取れない状況が続いた場合、最終的には「時効(一般的には死亡後3年、かんぽ生命の場合5年)」により、保険金の請求権が消滅してしまう可能性があります。
※中には、時効が過ぎても支払う保険会社もありますが・・・。

【もしもの備え】
複雑な家庭の事情がある方や相続人と疎遠な方は、遺言書を作成しておくことを強くお勧めします。また、相続人となる行方不明の直系血族(子・孫・父母)がいる場合は、生前に近くの役所で戸籍謄本を取得しておくと良いでしょう。戸籍の附票(住所の遍歴)は本籍地の役所でしか取得できませんが、生前に取り寄せておけば、万が一の際に少しでもスムーズに相続手続きを進めることができます。

ただし、諸事情により「住民票の閲覧制限」がかかっている場合、直系血族であっても連絡先を知ることは非常に困難となります。