ある医療機関の院長からこんな相談がありました。
「この間、亡くなった父(先代院長)の件なんだけど、先日、突然面識の無い女性が家を訪れてきて、父の自筆の遺言書を私と母に見せて、私にも先代院長の財産を貰う権利があるって言ってきたんだけど、どうすれば良いかな?」
その女性はどうやら、先代院長の愛人だったようで、遺言書の中身はその女性に自宅と財産の一部を譲ると書いてありました。
先代の院長と言えば一代で地域有数の診療所を築き上げた傑物でしたが、豪快な性格で、私生活では派手に遊んでいた時期もあったようです。家庭を顧みない時期もあり、お母様も現院長との晩年の関係は希薄で、先代院長の交友関係はもちろん、財産もどの程度あるか把握していない状況でした。
既に葬儀も終わり、遺言書も特に見あたらなかったので、家族で話し合って遺産分割も済ませた後でした。
現院長とお母様は当然納得できず、弁護士に相談して遺言書無効の訴えを裁判所に起こしましたが、数年の歳月を経て遺言書は有効と判断されてしまい、院長はやむなく自宅を手放し、更に財産の一部の代わりに多額の現金を支払う事になってしまいました。
今回、一番問題だったことは、相続を受ける側が遺言書の存在を知らなかったことですが、それ以前に、故人の生前の交友関係や財産を殆ど把握していなかったことが最も悪い方向に流れてしまった不幸な事例でした。